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食品分野での安心


 「食の安全・安心」がよく問題になるのは、関係者が十分に合理的な対策を講じているにも係わらず、消費者が食品の安全性への不安を訴える場合である。ここに、安全でなければ安心できないとのは当然として、安心できないから安全でないはずとの主張もある。 

 上の主張は、安全と安心が表裏一体であることを前提としている。食中毒に代表される見える危害の要因に対しては、安全と安心は表裏一体とみなすことができる。その対応は基本的に防災や防犯と同じである。 

問題は、食品添加物・汚染物質に代表される見えない危害の要因への対応である。食品分野で安全・安心が話題になるのは、専らこちらの対応である。見えない危害の要因に対しては、安全と安心は表裏一体といえない。「食の不安に係わる要素」で記述したように、食品分野では安全以外にも多くの要素が安心に影響する。食料確保、栄養性、嗜好性などである。また、安全についても、生活規範など多様な要素が係わる。 

 見えない危害の要因では、その名の通り発生させる危害が見えない。たとえば発がん性が問題となって禁止されたAF2は約10年間にわたって使用されたが、何時・何処で・誰に危害が現れたかは、行政 機関も把握できていない。企業はもちろん被害者本人も気づかなかったと推察される。しかしながら、被害者は確実にいたと信じられている。 

係わる要因が多い反面、危害の実態が漠然としていると、不安が増幅し易い。一旦不安になると、不安を打ち消す根拠がない。本当に忌避している理由が自分でも見えなくなる。不安を感じているところに、安全性の問題が提起されると、自分でも安全性が原因と考えてしまう。

最後に指摘しておくと、食品分野では安全性確保の第一義的責任を担うのは食品事業者である。行政機関も関与するが、あくまでもがサポートである。この辺の事情は、旅 客輸送分野に似ている。行政機関が信頼できても、消費者の安心には不十分である。

(2005年11月作成)(2012年8月改訂)