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見える危害
とは


  食品による人の体への危害の分類の仕方は多数あるが、筆者は見える危害と見えない危害に大別することを提案している。これを提案するのは、食の安全・安心との係わりで両者は明確に異なるのに、これを区別しないで議論する例が多いからである。

見える危害とは、経験則で認識できる危害である。見える危害は古くから知られていた危害で、代表的なものは食中毒と異物による危害である。 

見える危害は、@顕著な症状が、A頻度高く、且つ B直ぐに発現する、の3つの条件全てを満たす。3つの条件全てを満たす危害でないと、人々はこれを危害と認識できない。どれか一つでも当てはまらない危害は、次項で説明する見えない危害である。 

代表的な見える危害である食中毒を引き起こす要因は、化学ハザードと生物学的ハザードに大別される。食中毒はその名前が示すように、かつては化学ハザードによる中毒が主であった。化学ハザードである自然毒は、患者を死に至らしめる頻度は高いが、その事件数は少ない。化学ハザードによる危害には、短期毒性や慢性毒性あるいは発がん性等があるけれども、見える危害はこのうち短期毒性により引き起こされる。 一方、発生件数でみると、現在では生物学的ハザードによる食中毒が大部分を占めている。生物学的ハザードには、細菌とウイルス及び原虫がある。生物ハザードによるハザードは専ら短期毒性で、 多くの場合は見える危害である。生物ハザードが引き起こす食中毒事件は多いが、一過性のことが多い。

食中毒事件に関して、日本では監視体制が整備されている。食品衛生法第58条の規定により 食中毒と診断した医師は保健所に届けなければならない。届出を受けた保健所は、中毒原因物質などを調査しなければならない。調査の結果は食中毒統計として公表される。 日本だけでなく、欧米など先進国ではどこでも食中毒監視体制を整備している。したがって、頻度がかなり低い原因物質であっても、専門家は食中毒を発生させる要因であることに気付くようになった。しかしながら、多くの国民がその情報を共有していない現在では、これらの原因物質による危害を見える危害とは呼べない。   

異物による危害の代表的なものには、金属・石・ガラスによる歯の破損と口腔内の切傷がある。異物による危害は別次元とされているためか、食中毒には含まれない。異物でも 貯穀害虫、獣毛、骨などは規制の対象になっていない。

 
見える危害に対しては、行政機関や専門家が積極的に注意喚起す しており、消費者から懸念が表明されることは少ない

(2012年8月作成)(2014年3月改訂)