新規食品成分は事前の安全性審査が必要

 
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はじめに、本サイトで使用する新規食品成分と法律に基づく用語である新開発食品成分の違いを説明しておく。新規食品成分は、EUで使用されている「novel foods and food ingredients」 のうちnovel food ingredientsを取り出した訳語である。新食品成分と訳することもできるが、EUで使用されている新規食品成分は新規性のある食品成分というように広く捉えられるのに対し、新食品成分では やや狭くなりまた曖昧になるので採用しなかった。新開発食品は、食品衛生法第7条が「新開発食品の販売禁止」条項と呼ばれている新開発食品を意味するが、ここで対象とするのが食品成分であることを明確にするために新開発食品成分としている。

  EUでは、1997年5月15日以前から十分な量が販売されていなければ新規食品成分である。そして、新規食品成分は規制当局による事前の安全性審査を経ないと販売できない。一律に安全性審査が義務づけられているのである。一方、新開発食品成分は、法律で「食品衛生上の危害の発生を防止するため必要があると認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、それらの物を食品として販売することを禁止することができる。」と規定されていて、条件付きで禁止できるに留まる。
いわゆる“できる規定”である。つまり、 日本では新規食品成分といえども事前の安全性審査を経ることなく販売しても違法でない。

  改めて新規食品成分と新開発食品成分の関係を整理すると、新開発食品成分とは、新規食品成分のうち合理的に危害の発生が予見されかつ審議会が同意するという条件を満たすものといえる。すなわち新開発食品 成分は新規食品成分の一部である。新規食品成分が一律に事前の安全性審査を課せられているのに対し、新開発食品は事前の安全性審査には言及がなく、条件を満たすものを禁止するだけである。

  日本では新規食品成分といえども、通常は事前の安全性審査を経なくても販売できる。これはやや特殊な状況であり、EUだけでなくアメリカにも同様の規定がある。アメリカでは、1994年10月15日以前から販売されていなければ新規食品成分(new dietary ingredients)であり、FDAによる事前審査が課せられている。

  この事実は、意外かもしれない。いわゆる石油たんぱくを新開発食品であるように規制した。遺伝子組換え食品は新開発食品でないと認定したけれども、それを償うように非常に厳しい安全性評価基準を適用している。日本は食品の安全性に関しては大変厳しい国であると、行政や専門家は自負している。おそらく、多くの国民もそう信じている。

  日本が食品の安全性に関しては大変厳しい国であるというのは、一面で事実であるが、一面では幻想である。食品衛生法第7条(新開発食品の販売禁止)においては、新開発食品(成分)の禁止は限定的に運用することとしており、安全性の事前審査は義務づけられていない。一般論でいえば、食品安全に係わる施策は、アメリカのFDAやEUの規制当局の方が日本の規制当局より信頼性が高い。アメリカのFDAやEUの規制当局と異なる日本独自の施策に対しては、本当にそれで良いのかを疑う必要がある。

  新規食品成分が登場するのは、多くの場合健康食品か食品添加物である。このうち食品添加物はポジティブリスト制度(指定された物だけの使用を認める仕組み)が採用されているので、 自動的に事前審査が課せられている。問題は健康食品である。特に機能性表示食品制度が発足して、新規食品成分の販売が加速しようとしている。

 日本における新規食品成分の現状は、食品衛生法第7条の規定が問題といえるけれども、必ずしも法律改正が必要とは思えない。この条項の理念は、新規食品成分の安全性審査を支持しているようにみえる。そうであれば、具体化する省令や告示で規定すれば実施できることである。第7条を根拠にした新規食品成分(新開発食品成分)の事前審査を義務づける省令あるいは告示の制定が喫緊の課題となっている。

 

(2015年6月作成)