「食品とは」の項で、食品とは
「人が栄養素を摂取するための物であって、農水畜産物あるいはこれを素材に調製・加工・製造された物であって、一般的には市場を経て供される物である。これと実質的に同じ物を含み、飲み物も含む。」と定義した。本項では、この定義に登場する用語およびその他の関連用語と食品との関係を吟味することにより、食品についての理解を深化させる。
農産物と食品:
農産物で農水畜産物を代表させている。農産物と食品の関係は、農産物が食品の素材になる。すなわち縦列関係にある。となるとその境界が問題となるが、田畑に育っているのは農作物で、収穫して農家の庭先にあるのは農産物である。一方調製
・加工されたものはもちろん、そのままの農産物でも市場に出荷されたものは食品といえる。ただし、その境界は曖昧であることも多い。
飼料と食品:
飼料と食品は典型的なものの区別は明確であるが、判別し難いものも少なくない。食べ残しや食品工場の副産物が飼料に利用されることがある。したがって同じものであっても、人が食べるのは食品であり、家畜が食べるは飼料としか説明できない。なお、飼料と食品を比較したが、飼料は本来食料に対応する。食品に対応するのは餌である。
医薬品と食品:
医薬品と食品は、人が体内に摂取する点で似ている。しかしながら、食品は栄養素の摂取のために、医薬品は薬効を目的に摂取するものなので区別できる。ただし、両方の目的で摂取されるものもあるので、境界は曖昧である。そもそも日本・中国には古くから医(薬)食同源の考え方があり、食べ物の中に滋養効果を求めてきた。漢方に使用される薬草と食品の素材になる野草を区別することはできない。近年では食品の生体調節機能が注目されるようになり、その効能の科学的根拠に関する研究が盛んになった。その結果、特定保健食品が登場し普及している。ただし、厚生労働省は行政上の都合から食品と医薬品をきちんと区別している。
料理と食品:
料理と食品は、古くは区別が明確であったが、現在では曖昧になっている。食品はある程度保存性を持ち市場での流通を経て食するものである。料理は家庭や外食店でしつらえてその場で食するものであった。ところが、総菜や缶詰などが登場すると料理と食品の区別があやしくなった。近年の技術開発に伴い料理が市場で流通されるようになったので、その傾向が強まっている。逆に料理と呼べるものに変化した食品はないので、料理の一部が食品と呼べるものに変化して曖昧になったといえる。
飲料と食品:
飲料は液体であり、食品は基本的に固体である。古い時代には飲料の代表は水だったので、採集・栽培して獲得する食べ物とは明確に区別されていた。その後、お茶やジュースが普及するようになると、ことさら区別する必要なくなってきた。現在でも食べ物と飲み物、食料と飲料のように区別する言葉があるので、飲料が完全に食品に含まれたとはいえない。その一方で、食品や食物には飲料に相当する用語がないことから、区別しなくなったといえる。飲料という言葉は、食品と区別したい事情がある時とか飲料であることが明確な場面で使用される用語となっている。
嗜好品と食品:
嗜好品は高揚感や楽しみの目的で摂取されるものであり、栄養素を獲得するために摂取する食品とは別物と捉えられていた。しかしながら、食事を楽しむことが当たり前になったことから、嗜好品と食品に本質的な違いはなく、お菓子が嗜好品であったことを知る人も少なくなった。現在では嗜好品よりも嗜好飲料として言葉が残っているが、嗜好飲料も薬効成分(カフェイン)が含まれていること以外は他の飲料と区別されないので、お茶やコーヒーを敢えて嗜好飲料と呼ぶことは少なくなっている。例外的にアルコール飲料は現在でも食品と区別されるが、
これもアルコール飲料と呼ばれることが多く嗜好飲料と呼ばれることはほとんどない。
加工食品:
加工食品には食品が含まれるけれども、敢えて取り上げる。というのは、農業分野には農産物を加工した物が食品と捉える人が多いからである。そもそも自給自足の時代や農家が消費者に直接販売していた時代には食品という概念が弱かった。加工業者が登場し、農家と消費者の間に介在するようになってから食品という概念が普及し、その代表的な製品が加工食品だったためと思われる。しかしながら、生鮮食品という用語も存在し、これは名前の通り食品であるが加工食品ではない。食品は加工された農産物というよりも、流通する農産物またはそれを素材に
調製・加工・製造された物と理解するべきである。
(2013年10月作成:柳本)