食品安全安心研究所に戻る 安全の意味を広辞苑で調べると、「@安らかで危険がないこと、A物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれがないこと」となっている。 辞書の説明からも分かるように、安全の概念はかなり曖昧である。というのは、安全とは危険がないことであり、否定語となっているからである。安全は便利な用語なので広く使われているが、同時に都合良く使われているので、その意味が益々曖昧になっている。食品の安全性を考えるうえでは、その定義を明確にするのが望ましい。辞書でその意味を確認しておくことは大きく外さないことには役立つが、満足できることは少ない。 安全について、食品分野でいちばん権威があると思われる定義はCodexのもので、ここではFood Safetyを「食品が消費者に危害を及ぼさないだろうという保証」としている。念のために付け加えると、Codexの定義には、この前に「予期された方法や意図された方法で作ったり食べたりした場合に」という条件が付いている。この部分があると混乱すると考えて敢えて省略したが、厳密な議論をする場合には省略するべきではない。 一方工業分野では、JISで安全を「受容できないリスクがないこと」と定義し、そのうえで安全は「リスクを許容可能なレベルまで低減させることで達成できる」としている。この定義では安全をより明確な用語であるリスクを使って説明している。 もっと広い分野での定義が、文部科学省が設置した「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」の報告書にある。これによれば安全とは、「人とその共同体への損傷、ならびに人、組織、公共の所有物に損害がないと客観的に判断されることである」としている。この定義で指摘しておくべきことは、安全の対象を人に限らず共同体も含めていることであり、損傷だけでなく損害も含めていることである。もう一つ、客観的に判断される こととしている。これは、同じ報告書の安心の部分で主観的な判断としていることに対応する。 筆者は、安全とは「食品による人の体への危害がないこと」と定義している。この定義は、辞書の説明のように大雑把ではあるが、安心と対比させる工夫がある。因みに安心は、「食品による人の心への危害がないこと」と定義している。これにより、安全 と安心を並列・同等に捉え、そして両者を簡潔明快に区別している。
一つ付け加えておきたいことがある。食品安全と食品衛生についてである。上の定義を記述しているCodexの資料には、食品衛生(Food
hygiene)を“フードチェーンの全ての段階において食品の安全(safety)と適合(suitability)を保証するのに必要な全ての条件と手段”と
定義している。そのうえで、食品適合(Food
suitability)を“食品が人の消費に対し受容されることの保証”と定義している。有名な定義のはずなのに、日本では言及されることがない。この受容には宗教上の理由も含まれる
はずであるが、
一般的には安全性以外の摂食における障害(咀嚼困難・異味異臭・貯穀害虫など)を意味するとされている。 (2012年8月作成:柳本)(2013年1月改訂) |