はじめに、安心には物質の係わりは小さく、情報の係わりが大きい事実を指摘する。というのは、「安心性とは」の項で指摘したように、安心性に
係わる主体は情報に外ならない。これを安心としてみると、安心性とは異なり、情報だけでなく自己の体験として物質の影響も加わる。しかし自己の体験のウエイトは
低いので、安心においても情報のウエイトがはるかに高いことには変りがない。念のために付け加えると、食品にはハードとしての物質だけでなくソフトとしての情報も含まれる。
一方、情報は安全に直接には影響しない。安全に影響するのは食品に含まれる物質である。食品情報が安全に影響するのは間接的で、@摂食するか否かの判断材料にして食品による危害の回避すること、A情報を活用して購入した食品を安全に取り扱うためである。繰り返しになるが、情報は安全に直接影響するのはなく、危害の回避に活用されることにより間接的に役立つ。
以上の事実は、常識的と信ずるが、これまで指摘されてこなかった。
安心に影響する情報の種類は多いが、影響力が高いのは、いうまでもなく安全に関する情報である。安全に関する情報は、食中毒に代表される急性毒性に関する情報と発がん性や催奇毒性等などの慢性毒性に関する情報を区別するのが適切である。
品質分野では前者を探索品質、後者を信用品質と呼んで区別している。急性毒性による危害は、食品や料理を注意深く観察することにより、ある程度危険を回避できる。そして、発症しても多くの場合は一過性であり、病院に行けばほとんど場合は治癒する。一方、慢性毒性による危害は、長期に食べ続けた後に発症し、発症すると不治の病になる。また、人にはこれを警戒する能力が備わっていない。このために、消費者にとって慢性毒性による危害を回避するためには、食品事業者や行政機関からの情報に頼るしかない。
一般には情報と一括りにしてしまうけれども、食品の安全性に関する情報は、一般的な情報である記号情報に限定しても、四種類あると考えている。食品事業者が提供する表示情報、行政機関が提供する規制監視情報、生活においてクチコミなどで入手する生活情報、及びマスコミなど社会から入手する社会情報である。ここで指摘したいのは、消費者は食品事業者や行政機関からの情報だけに頼っていないことである。
とはいえ、消費者にとって直接的で確実に入手できるのは情報は、食品事業者により提供される表示情報である。たとえば、消費者が食品を購入する際に入手できる情報は、表示情報に限
られる。普段はあまり見なくても、関心を持った時に表示から必要な情報が得られないとか、その内容に納得できなければ、消費者は安心できない。
安全安心で議論されるのは主に、上述の四種の情報のうち行政機関が提供する規制監視に関する情報である。行政機関が提供する規制に関する情報のうち、基準の内容および基準策定の過程については、厚生労働省や農林水産省などリスク管理機関から提供される。その背景となる安全性評価については、食品安全員会から提供されている。
行政機関が提供する情報は、迅速にそして包み隠さず提供することが求められている。ところが、行政機関が情報を整理しないで公表すると、しばしばメディアに
より扇動的に取り扱われて、
行政機関にとっては不本意な混乱を引き起こすという現実がある。その一方、国民から信頼されている行政機関は、全ての情報をいち早く公表するところではなく、提供の仕方まで吟味してから公表している府省である。
これを反映して、行政機関は情報の確かさと公表による影響を吟味してから公表するようになっている。しかしながら、この公表の仕方は行政機関の都合の良い情報だけを国民に知らせるやり方である。どうすれば行政機関が全ての情報をいち早く公表する仕組みが構築できるのか、特に安心安全分野では重要な課題である。
(2013年1月作成)(2014年5月改稿)