前項で安全安心の使用が確認できたのは、1984年であった。そうすると「食の安全安心」は、それ以降のはずである。安全安心と同じように、食の安全安心についても、その使用開始時期を把握しておく。
調べ方は安全安心と同じで、国会図書館が提供している資料検索システムNDL-OPACと3紙(朝日・毎日・読売)の記事検索システムを利用した。
NDL-OPACを対象に、キーワードを「食の安全安心」として検索すると、「安全安心」の時と同じ問題が生ずるだけでなく、フレイズ検索が不完全である。これらの問題を克服していちばん古いと判断した資料は、1996年に出版された藤原邦達の著書「食品衛生法:食の安全・安心を確保するために」であった。食品分野で安全安心が登場してから
更に8年後である。これに次ぐのが、松岡公明が同年5月号の「協同組合経営研究月報」に寄稿した「食の安全・安心システムの構築をめざして--トレーサビリティとパートナーシップ」になる。実は5月15日発行の「週刊農林」には「農林水産省版
総合 食と農の再生プラン 消費者に軸足移した農政改革へ
食の安全・安心システム確立」が掲載されており、松岡公明の記事とどちらが早いかは微妙である。国会図書館で両方の資料を借り出して見比べた結果上述のように判断したが、必ずしも確信はない。いずれにしても藤原の著書から更に6年を経過している。食の安全安心は書籍・雑誌などの資料にはなかなか登場しない用語だった
。
新聞記事での使用をみると、2002年9月18日の読売新聞東京朝刊に掲載された「県、週内に「食の安全安心チーム設置へ」=青森」が最初であった。新聞記事における安全安心の初使用から8年ほど経過しており、新聞記事でもなかなか採用されない用語だったことがわかる。なお、朝日新聞は同年同月30日で、毎日新聞は同年10月2日なので、ほぼ一斉に始まったといえる。
2002年で思い起こされるのは、2001年9月にBSE牛の発生が日本でも確認されたことである。いわゆる狂牛病への恐怖が社会的に大問題になった。その対応策として、同年10月は牛の全頭検査が実施されるとともに、2003年に食品安全基本法が制定され、更には内閣府に食品安全委員会が設置された。その過程で、食の安全に対する不安を象徴する用語として
新聞でも使用されるようになった。
講演会などでは、「食の安全安心という言葉はBSEで始まった」と指摘されることがある。新聞記事的には的を射た指摘と言えるが、書籍・雑誌を含めると正し
いとは言い難い。
(2014年5月作成:柳本)