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微生物では包括的な名称も採用した理由


  ハザード分析表では、規制ハザードにしても認識ハザードにしても、原則として特定の物質を掲載している。実際、食品添加物や農薬などでは、物質名まで特定している。

  このルールを微生物に当てはめると、分類学的には少なくとも属・種名まで特定するべきである。できれば株まで特定するのが望ましい。

  ところが、微生物では種の名称までを学名で記述したのは、食中毒菌の一部にすぎない。多くの場合は、食中毒菌、病原微生物、腐敗微生物(菌)、汚染微生物(菌)、混入微生物、共存微生物、浮遊微生物、付着微生物のように、病原性の有無、混入の仕方、食品中での存在状況を示すにすぎない名称を採用した。真菌、酵母、細菌、一般細菌のように、分類学を踏まえた名称ではあるが、慣用名を使用した例もある。中には単に微生物としたこともある。単に微生物と記述するのであれば、物質とか化学物質と総称するのと同じである。

  しかしながら、これらの名称が分野毎に便利に使われていて、当該分野ではそれなりに相応しい名称になっているという事情がある。この名称を整理するとなればそれ自体が一つの仕事となり、幅広い知識とかなりの労力を必要とする。したがって整理する人はおらず、その気運もない。

  化学物質と同じように、微生物も数が多くなると危害を起こす例が多いという事情もある。食中毒菌の中には腸管出血性大腸菌やノロウイルスのように、100個以下の菌数、極端な場合は1個の菌体だけで発症させる微生物もあるけれども、ブドウ球菌やボツリヌス菌のように10万個以上の菌数にな らないと発症させない微生物も多い。1,000万個以上になれば、食中毒菌や病原微生物と呼ばれないような普通の微生物でも人に危害を及ぼすようになる。危害を及ぼすのは必ずしも特別な微生物とは限らない のである。

  何よりも、食品中には多くの種類の微生物が存在している。そしてその中には食品中で増殖できるものがたくさんある。また、微生物は加熱に代表される殺菌・減菌処理が可能であるが、その効果も微生物ごとに変わる。

  以上の事情から、微生物は属・種名に拘らず、包括的な名称であっても無理をせずそのまま採用している。

(2014年3月作成)