微生物には、食中毒の原因物質として太宗を占める食中毒菌が含まれる。また微生物には食品中で増殖できるものも多いため、その対策は化学的危害要因や物理的危害要因よりも厳格さが求められる。したがって、何が規制されている微生物か何が食中毒菌なのかは、農薬や食品添加物と同じように、一覧表なり資料があると想像していた。ところが実際にはそうではないのである。
食品の安全性確保で最も問題になる食中毒菌について、これを指定した規定や一覧表はない。見つけることができたのは、食品衛生法施行規則に付随している様式の「食中毒事件票」に病因物質の種別として例示されている、16の食中毒菌(ウイルスを含む)である。ややイレギュラーな記述の仕方であるが、省令に記述されているので、これらの食中毒菌は規制されていると判断した。「その他の細菌」と「その他のウイルス」もあるが、このことをもって全ての食中毒菌が規制されているとはみなさない。
わかり易いのは動物病原菌である。動物病原菌は、家畜伝染病法により家畜伝染病と規制伝染病が指定されており、同時に規格基準で検査するべき疾病が指定されている。これらのリストに名前の挙がっている動物病原菌は規制されているといえる。参考までに、植物病原菌にもリストがあるが、植物防疫法は人の健康を目的とした法律ではないので、規制されているとはいえない。
食中毒菌に戻ると、規格基準にもいくつかの食中毒菌が挙げられている。その多くは上の16の食中毒菌に含まれるのであるが、それ以外にクロストリジウム菌がある。これは特定加熱食肉製品を対象に規定されている。条件付きではあるが、クロストリジウム菌は規制されていると判断される。
ハムのハザード分析表を作成しているとリステリア菌がサルモネラ菌と並んで重要な危害微生物であることを知った。ところが、リステリア菌は上述の食中毒菌には含まれていない。一方常識的にはリステリア菌は食中毒菌である。改めて探したところ、輸入食品監視指導計画にはモニタリング検査するべき病原微生物にリステリア菌が例示されていた。輸入食品監視指導計画は告示に相当することから、リステリア菌も規制されているとみなした。
上述のクロストリジウム菌とリステリア(モノサイトゲネス)菌は、HACCPの危害要因として例示されている微生物である。しかしながら、HACCPの危害要因として例示されている微生物が規制されているかは
疑問がある。HACCPの認証を取得するために対処する必要があるのであって、取得しなくても生産は可能である。この事実から判断すると、HACCPの危害要因として例示されていることを根拠に規制されているとは言い難い。
特異な例としては、カビがある。輸入食品検査違反としてカビの発生を挙げている例が2012年に66件もある。カビの発生は穀物の輸入検査違反の代表的なものでもある。輸入検査違反になると廃棄されるので規制されているといえる。問題はカビを規制ハザードと呼べるかである。このために厚生労働省に問い合わせたところ、誰が見ても酷い状態ですとの回答であった。カビは一律に規制ハザードとはしないけれども、輸入検査で違反が出ている食品の場合は、規制されているとした。
最後に、ウイルスと原虫がある。ウイルスや原虫は分類学的には細菌やカビなどの微生物とは区別される。しかしながら、社会的には区別されておらず、行政の取り扱いも区別していないようにみえる。この理解で常識外れとは思えないので、ウイルスや原虫であっても上の基準に合致すれば、規制されている微生物と捉える。