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中核的責任を担う主体の指定が望ましい


  日本における食品の安全性確保の枠組みを定めている食品安全基本法では、「食品関連事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たって、自らが食品の安全性の確保について第一義的責任を有していることを認識して、食品の安全性を確保するために必要な措置を食品供給行程の各段階において適切に講ずる責務を有する。」と定めている。食品の安全性確保は全ての段階で適切な措置を講じなければ達成できないので、全ての食品関連事業者が適切に講ずる責務を負っているのは当然のことである。しかし、この規定によれば食品関連事業者が等しく責務を負っているようにみえるが、そのような体制だと問題が大きい。

 パンのハザード分析表を作成して気付いたことであるが、製粉事業者は受け入れた原料小麦のハザードの低減回避措置を講じている。これに続くパンの製造事業者も製品として出荷するときには、法令に違反する事項はないはずの状態にしている。販売されたパンが原因で事件が起きた場合、まずパン製造事業者が責任を問われる。たとえば販売事業者が 責任を問われるのは、パン製造事業者の指示に従わなかった場合にすぎない。

 CODEXの牛乳・乳製品の衛生規範では「製造した食品が安全であることを保証する責務は製造業者にある」としている。その後に他の食品関連事業者の協力が不可欠との指摘が続くのであるが、製造業者が衛生確保における中核を担うことを明確にしており、全ての食品関連事業者が等しく責務を負っている ことにはなっていない。

  言いたいことは、加工食品においては主に食品加工過程が中核的責任を担っている。販売過程や運搬保管過程は法令とメーカーの指示を遵守することで免責される。農業生産過程も同様である。 外食で提供される料理の安全性も、外食店が結果責任を問われている。死者が出なくても食中毒事件を起こせば、3日間くらいの営業停止になる。しかし食品加工業者の場合ほどは徹底していないために、3年前に発生したユッケの食中毒事件では、外食店と牛肉納入業者で責任の擦り付け合いがあった。

  全ての食品関連事業者が適切に講ずる責務を負うのは当然として、全ての事業者が平等に責務を担うことは、現実的には誰も責任をとらない体制になり勝ちである。全体の中で中核的に安全性確保を担う主体が存在する方が、安全性確保は確実になると信じられる。そうであれば、この事実を明確にするべきであり、中核的に責任を担う事業者を社会的に支援する仕組みの構築が望まれる。

  現在も結果責任を担う主体が曖昧にみえるのは、生鮮食品である。これは、かつて食品の安全性が買い手責任だった時代の名残と信じられる。加工食品や外食の料理と同じように、生鮮食品でも中核的に責任を担う主体が必要であり、社会的に指定するべき時代となっている。個人的には、消費者と直に接する販売事業者が担うが自然と考えている。

(2014年1月作成)