微生物は、食品中の主要なハザードである化学物質に比べると、ハザードの特徴として重要な違いがある。最も重要な点は、微生物の多くが食品中で増殖できることであり、その微生物を死滅・減少できることである。
微生物には食中毒の事件発生件数の大部分を占めている食中毒菌が含まれているために、食品関連事業者にとっては微生物の対応が現場における食品衛生管理の最重要課題となっている。
農産物や食品は人でも食べることのできる物質なので、これを利用して増殖できる微生物がいるのは当然である。特に水分が多い食品には、細菌を中心に多くの微生物が増殖できる。したがって、原料農産物中には少数しか付着していない
微生物が、食品加工過程中で増えて、製品では食中毒を引き起こすほどの数にまで増えていることもしばしば起きる。その一方で、微生物が一旦増殖しても、これを加熱処理などにより死滅・減少させることが可能である。
化学物質は食品中に留まり、一般には増えることも減ることもない。確かに例外も少なくはない。例えば食品を加熱すると新しく物質が生成することがある。しかしながら、加熱を止めると生成は止まり、その後は変化がない。また、食品中で他の物質に変換する化学物質もあるが、総量として増えるわけではない。化学物質の場合
のハザードの発生過程は、化学物質に汚染した過程とか化学物質を使用した過程である。
一方、微生物では農業生産過程で汚染し、食品加工過程で増殖して危害を及ぼすようなことが起きる。このような場合、どちらがハザードの発生過程かが問題になる。また、出荷後を考慮して加熱処理し、その時点では危害を引き起こさない程度にまでは減少していても、それが不十分だったために出荷後の販売過程や消費者段階で再び増殖して危害を及ぼすことがあり、このような場合はどこがハザードの発生過程かも問題になる。食品衛生法では基本的には食品加工過程における増殖とか加熱処理不良を規制の対象としているが、取り締りのし易さを考慮した規定と思われる。ハザード発生過程として公平な措置かどうかには疑問がある。
この辺の事情を考慮して、ハザード分析表では、微生物が付着・汚染する過程、増殖する過程、加熱処理不良の3つの過程を想定した。ハザードの発生過程は、まず微生物が付着・汚染する過程とし、併せて後ろ2つの過程もハザード発生過程とした。ただし、後ろ2つの過程は微生物または食中毒菌名の後に(増殖)、(生残)を付けることにした。