食品に付加されるハザードには、食品事業者が意図的に使用してその結果食品に付加されるものと、食品事業者の意図に係わらず混入・汚染してしまいその結果食品に付加されるものがある。どちらが危険というわけではないが、前者の方が制御し易いことは疑いない。
前者の代表的な例として、食品添加物、農薬および動物医薬品がある。これらは特定の目的のために使用する。食品添加物の安全性が古くから問題にされていたことは、日本における食品衛生に関する最初の規制が「アニリン其他鉱属性製ノ絵具染料ヲ用ヒテ飲食物ニ着色スルモノ取締方」であったことからも窺える。そのためもあって現在では、これらの化学物質は上市前における安全性試験が義務づけられている。その厳しさの妥当性はここでは論じないが、一般論として日本の規制当局が示している試験条件は世界的水準にあることは信じて良さそうである。したがって、安全性試験を経たこれらの物質が重要な事件を引き起こす可能性は高くない。
低いと書かずに高くないと書いたのは、一旦認可されると安全性試験が想定した使用目的とは異なる形態での使用も可能となっているためである。その実態を明らかにすることは難しいが、垣間見ること
のできた例がある。既存添加物の
一部廃止にいたる経緯である。既存添加物は、安全性試験の実施と使用実態のない品目を廃止する方向で作業が進んでいるが、廃止された既存添加物の中には食品添加物としての効果ではなく、健康機能を標榜する目的で使用されていた例があった。それも単独でなく複数である。
このためにハザード分析表では、最近作成したものから、食品添加物や農薬の認識ハザードとして「想定外使用」を挙げることにした。その背景には、食品添加物でも用途や使用量を定めない例が少なくないからである。使用量を定めていないことが原因で事故は起きたという事例は明らかになっていないが、継続摂取で引き起こされる慢性毒性や催奇性は健康影響を検知するのが困難なので、把握できていないだけと懸念されるのである。
そもそも食品添加物等は、必要だから使うはずである。そうすると、使用目的で必要な効果を発揮する量を超えて使用する理由はない。これを必要効果量と呼ぶとすれば、
意図的利用においては必要効果量を上限とするべきである。
具体的には、安全性試験で一日摂取許容量が設定されると、規制値は一日摂取許容量と必要効果量の低い方を採用する。現在では、安全性試験で問題が指摘されない場合、
食品安全委員会は一日摂取許容量を設定しないと答申するが、そうするとリスク管理機関は他に規制する根拠がないために規制値を設定しない。これではその使用に歯止めはなく、増量剤として使用することも可能である。