食品の安全性確保の高度化を図るためには、食品のリスクの全体像を把握することが不可欠であり、そのためにも各食品が持つハザードを網羅的かつ体系的にリストアップしておくことが重要であると主張している。ハザード分析表はこの主張を具体化する目的で作成している。このような情報を集積すれば
、食品のリスク分析分野におけるインフラとなると期待している。
ハザード分析表作成の第一の目的は、想定されるハザードを全て視野に入れることの重要性を示すことである。こう言うと当然のことと思われるかもしれないが、実際には
そのような資料はなく、リスク管理の対象は法令で規制されているハザードか規制を検討しているハザードに限られる。法令では規制されていないけれども視野に入れておくべきハザードに注目する。
第二の目的は、食品が絶対安全(ゼロリスク)であることはあり得ないことを実感できる資料とすることである。ゼロリスクというと、専ら消費者が主張することのようにいわれる。しかし実際には、
食品売り場では店に陳列している食品はあたかも絶対安全のように宣伝している。また、食品安全の専門家はしばしば特定のリスクだけを強調し、
問題のリスクを制御できれば絶対安全になるような説明をしている。食品には必ずリスクのあることを粘り強く分かり易く説明することが大切である。ハザード分析表を一見すれば、絶対安全が到底不可能であることを実感できると信じている。
そして三つ目は、リスクを認識する第一歩であるハザード知覚(Hazard
perception)への貢献である。リスク分析の考え方は、事件が起きてからではなく事件が起きる前にリスクを推定して、対策を講ずる点で画期的であった。そのためには何がハザードにな
るかもしれないのかを見極める必要がある。ところが、ハザード知覚の第一歩となるリスク特定の動向をみていると、リスク特定のハードルが高すぎるようにみえる。
福島の原発事故から学ぶべき教訓は、完璧な安全性への配慮が3重4重にあり、事故など考えられないはずの原子力発電でも、現実には事故が起きたことである。この事故は、危険性を指摘していた人ですら
考えられないような原因であったけれども、
その可能性を指摘していた専門家も少数ながらいた。少数の専門家が指摘しているハザードでも、重大なリスクが潜んでいることがある。
(2013年12月作成)