ハザード分析表において、用語としてのハザードをどう捉えるかは取り組みの根幹に係わることである。そこで、改めてハザードの意味を吟味しておく。
食品安全委員会は「食品の安全性に関する用語集」を作成しており、その最初の項目がハザード(危害要因)である。ここではハザードを「人の健康に悪影響を及ぼす原因となる可能性のある食品中の物質または食品の状態です。有害微生物等の生物学的要因、汚染物質や残留農薬等の化学的要因、食品が置かれる温度の状態等の物理的要因があります。」と説明している。
CODEXのCAC/RCP 1-1969「GENERAL PRINCIPLES OF FOOD
HYGIENE」でも、ハザードが定義されている。ここでは「ハザードとは、人の健康に悪い影響を引き起こす可能性のある、食品中の生物学的要因、化学的要因及び物理的要因と食品の状態である」となっている。
ここで紹介した二つの見解は基本的に同じといえよう。というよりも食品安全委員会の説明はCODEXの定義を参考に作成されたと推量できる。本取り組みのために改めてハザードの意味を吟味する必要はなさそうである。どちらを採用するかとなると、CODEXの方が適切である。というのは、食品安全委員会の説明のうち「食品が置かれる温度の状態等の物理的要因」の部分が間違いと信じられる。
主な物理的危害要因は金属やガラスなどの異物である。本取り組みとは関係の薄い部分であるが、間違いを含む定義を採用する理由はない。
ただし、定義にある「可能性のある」をどう解釈するかによっては、内容がかなり異なってくる。その違いは、ハザードを広く捉えるか狭く捉えるかにある。
たとえば一般的なHACCPのハザードでは、防御措置を意識するためか、ハザードを狭く捉えている。実質的には法令で規制されているハザードであり、しばしばそれに「措置が可能な」という条件が加わる。比較的広く捉える場合でもリスクが科学的に立証されたハザードとしている。
一方、ハザード分析表ではハザードを広く捉え、法令で規制されているハザードとともに疑う余地のあるハザードも含めている。合理的に疑わしいかどうかは問わない。ハザード分析表では更に踏み込んで、国民(消費者)の中に懸念する声のあるハザード
も含めている。こちらに対しては、食品安全の専門家からは大変評判が悪いのであるが、ハザードの捉え方についての基本姿勢が異なるためである。自然科学的な視点からは含めるべきでないかもしれないが、国民の安心にも配慮
した食品安全施策を主張する立場からみると、このハザードも含めるべきである。