食料資源問題の真実


 食料資源問題が話題にされることは少なくなった。農林水産省は自給率が低い事実を指摘し、これを向上させることの重要性を説いている。この主張は政府全体の施策である食料・農業・農村基本計画の根幹をなす考え方であり、2015年までに45%まで向上させるという数値目標を示している。 実際には1998年から40%で増加しない状態が続いているが、国民や識者が危機感を持っているとは言い難い。恐らく達成できないだろうと傍観者的に眺めているようにみえる。 ここでは食料資源問題の論点を整理する目的で、事実と信ずることを列挙する。

 まず最初に確認したいことは、日本の農地は足りないことである。不思議なことに、農地が余っていると信じている人が案外多い。これは遊休農地(耕作放棄地)の存在に起因すると思われる。全国には48.8haにも達する遊休農地が存在するとされているので、 これをもって農地は余っていると解釈する人がいる。実際にはこれらの遊休農地の多くは、米なら作りたいが米以外の作物は作る気がない農地である。一方、日本は小麦と大豆だけでも1,070万トンも輸入している。これらを栽培するためには約400haの農地が必要である。 この数字は遊休農地よりもはるかに広い。飼料用穀物を加えると、更に広大な農地が必要である。遊休農地の存在は、農地が足りていることを意味しない。

 次に確認したいことは、農業を自由化すれば自動車や家電産業のように国際競争力が付くという意見は間違っている ことである。矮小な農地と高い賃金を考えれば、誰が営農しても国際的に太刀打ちはできない。例えば農業よりは有利な条件にある製造業でも、工場の海外移転が続いている。この意見は、その妥当性を議論するよりも、何故このような無責任な意見が広く受け入れられるかの理由を 解析する方が建設的である。

 3つ目として、国内における食料生産を振興させて、一定以上の自給率を維持することは必要である。食料確保を外国に全面的に依存して良いほど、国際関係が成熟しているとは思えない。基幹食料を輸出できる国は欧米諸国であるが、これらの国々が未来永劫に農産物の供給を保証してくれているわけはない。人口が1億人を超える独立国家として、食料確保に万全を期す必要があることは、議論の余地がないと思われる。

 4つ目は、国土と人口を前提にすれば、どんなに努力しても食料の完全な自給は達成できないことである。つまり、食料のある程度の量は、未来永劫に亘って輸入に頼る必要がある。このために我が国は、世界の国々、特に食料を輸出できる国とは仲良くしなければならない。海外に食料を依存することはそれだけ不確定要素が多いので、安定輸出の確約を求めることも大切である。

 そして最後に、食料確保には厳しい条件にあるものの、国民が豊かで健康的な食生活を維持したいという欲求には、できるだけ応える必要がある。 国民の食生活を国が制限できるのは、あらゆる手段を講じても、必要な食料が確保できない時だけに限られる。

 以上の事実は互いに背反する部分が大きく、これら条件を無理なく満足させるためには、行政は非常に難しい舵取りが必要である。ただ、これらの条件をまとめると、農業の自由化農産物の輸入制限の両立になると考えている。 国内農業を維持するためにはある程度の輸入制限が必要であるし、農産物の輸入制限は国内農業を自由化し農地を最大限効率的に利用してこそ正当化される。もちろんこのような 政策を実行することには、当面多くの困難がある。政策の継続性は必要であるし、国内的・国際的な調和と妥協も必要である。しかし最終的に着地するべき姿を明確にしておくことは重要である。

20059月作成   2006.10.8更新 ver.3