食育への期待と不安 2005年の7月に「食育基本法」が施行された。法律の総則は、「この法律は、近年における国民の食生活をめぐる環境の変化に伴い、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性をはぐくむための食育を推進することが緊要な課題となっていることにかんがみ、食育に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、食育に関する施策の基本となる事項を定めることにより、食育に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来にわたる健康で文化的な国民の生活と豊かで活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。」となっている。このような法律が施行され、本格的な取り組みが始まることは喜ばしいことである。 食育では食生活を全体として捉えることになる点で注目している。つまり、健康・栄養の視点から、食品の安全性の視点から、食料資源の視点から、そして食生活・食文化の視点から、あるべき姿が提案されることになろう。個別の課題毎の議論では、専門家間でとかく先鋭化し勝ちなので、一般市民の感覚で食生活を全体から見た見解が個別課題にも反映されるようになることを期待したい。 ただ、二つ心配していることがある。一つは、文部科学省、厚生労働省、農林水産省が中心に取り組むことになっているが、文部科学省、厚生労働省の取り組みが本格的とは見えないことである。 文部科学省は「栄養教諭制度」の確立だけに関心があるように見えるし、厚生労働省は取り組みの方策が定まっていないようにみえる。農林水産省は本格的に取り組んでいるだけに残念である。もう一つは、食育という名前から来る懸念である。食育という名前からすると、食に関する教育を連想させ、幼児・青少年が対象という響きがある。 しかし、食育は幼児・青少年だけでは不十分で、高齢者を含む大人も対象にするべきである。大人の食生活となると、識者とはいえ一方的に教育するというのは無理がある。識者 は一般の人の意見を聞き、疑問に答え、助言を与えるくらいに留めるべきであろう。この件に関して、食品の安全性の分野には「消費者教育」の時代から、「パブリックアクセプタンス」を経て「リスクコミュニケーション」の時代に入った歴史がある。食育も「消費者教育」の時代を早く卒業して、「ダイエタリコミュニケーション」の時代に移行するのが望ましい。 |