甘いはうまい


 食べ物の味には、5基本味があると言われている。民族や時代によって異なるので、色の3原色ほど厳密なものではない。現在の日本では、甘味、うま味、酸味、鹹味、苦味とされている。

 このうち、甘味とうま味は生得的に好ましい味と考えられている。甘味とうま味を比べると、うま味の方が優勢である。うま味は「うまい味」という意味で付けられて味で、おいしい味の代表と考えられている。これに対し、甘味は 「糖尿病の元凶」「虫歯の素」などのイメージがあり、お菓子でさえ甘すぎると嫌われるようになった。

 しかし、少なくとも池田菊苗先生がグルタミン酸ソーダにうま味のあることを発見した頃までは、甘味はおいしい味の代表的な味であった。例えば「野菜のうま煮」は、グルタミン酸ソーダを使って煮た野菜料理でも、精魂込めて煮た野菜料理でもない。砂糖をたっぷり使って煮た野菜料理のことである。砂糖をたっぷり使って煮た野菜はおいしかったのである。ワープロで「うまい」と打って変換すると、「甘い」が候補に出てくるので驚かされるが、甘いがうまいとほとんど同義語であった時代の名残であろう。

 甘味がおいしいのは、エネルギーの素になる糖の存在を認知するためと考えられている。エネルギーの摂取は生きていくために必須なので、人間の体は好ましく感じるようにできている。甘味をおいしく感じるのが自然で、忌避される現在の方が不自然である。

 何故、甘味がおいしい味と見なされなくなったのであろうか。答えはエネルギーを充分摂取できるようになったためと考えられる。過剰摂取を警戒する時代においては、欠乏の時代とは異なり、カロリーの存在を好ましいとは感じる必要がなくなったのである。

 ただし、甘味を忌避する風潮は変である。自然の摂理に反している。甘味が「糖尿病の元凶」「虫歯の素」など流布されたため学習効果が働いたと考えられる。甘味成分にはこのような負の側面があるにしても、 食べ過ぎればネガティブな効果が現れるのは甘味成分に限ったことではない。甘味成分を全体としてみると、人間には有用である。