日本人のおいしさの特徴を考えたことがある。その後に吟味したことも踏まえると、以下の6つを挙げることができる。@新鮮、A里山前浜、B季節感、Cうま味系調味料、D水、E見栄えである。
以下簡単に説明する。@新鮮は、外来の食品が日本で変化する基本的方向でもある。すし、お茶、清酒、ビール、漬け物に例を見ることができる。 新鮮さは外国人でも大切にしているが、日本人は際立っている。A里山前浜とは、フランス料理・中国料理のように、遠隔地に山海の珍味を求めるのではなく、我が家の前浜で穫れる魚あるいは里山で採れる山菜においしさを感じることである。B季節感は、四季が明確な日本の風土を反映して形成されたと考えられる。ただし、本音ではむしろ初物を愛している。この辺の事情は「旬のスタジオ」を参照いただく。Cうま味系調味料は、グルタミン酸ソーダに代表される調味料を含むが、 グルタミン酸ソーダ好きに関しては現在では東南アジアの方が上である。ただし、高級素材を惜しげもなく使い捨てるダシ、風味を高度に発達させたみそ・醤油も含まれるので、現在でも日本的と考えて良い。D水も、綺麗な水が豊富に得られた風土に影響されたと考えられる。研ぎ澄まされた味の、日本のご飯・冷や奴・お茶は、綺麗な水が前提となっている。そしてあまり認めたくないのがEの見栄えである。日本料理の美しさ、百貨店の食品売り場や果物屋が綺麗なのは、日本人が見栄えを重んじていることの表れである。
日本人の生活スタイルは大きく変わった。食事構成も相当変わっている。上で述べた特徴は、現在までのものである。これからも維持されるとは限らない。たとえば水。便利で衛生的な水道は、綺麗な水とは言い難い。 水の影響を受け難い、チャーハン・麻婆豆腐・コーヒーで満足する時代が来るかもしれない。そして、最も影響が大きいと思われることに、肉食の普及がある。日本には肉食忌避
1200年の歴史がある。文明開化の時代の肉食は西洋料理に限られていたが、第2次世界大戦後は、中国・朝鮮料理の進出を受けた。肉食は確実に浸透している。肉食の更なる普及が上記の特徴に影響することは十分に考えられる。参考資料:柳本正勝
: 日本人の味覚ー「おいしさ」を考える, 食の科学, 光琳, No.221, 9〜14 (1996).