はじめに


 食べ物は、長い目でみると案外変化している。和風と思っている食べ物の多くは、古い時代に中国から朝鮮半島を経て伝わったものである。しかし、 それが日本で定着するためには、まず受け入れの時に選択があり、受け入れた後もしばしば日本風に大きく変化する。豆腐のように原型を留めている食べ物もあれば、すしのように原型を留めないものもある。変化の小さい豆腐でも、中国の豆腐とは異なる軟らかい豆腐へと変貌を遂げた。欧米の食べ物は南蛮の時代、明治維新の時代、そして戦後の3回の大きな伝搬があった 。明治以降の伝搬した食べ物は概ね原型を留めているが、南蛮時代に伝搬した食べ物には、天ぷらやカステラのように、何がルーツであったか定かでない食べ物もある。また、中国・韓国の食べ物で戦後になってから日本で普及したものも、餃子にしても焼き肉にしても、中国人や韓国人がみれば一言いいたくなるような代物だという。日本に入ると、全ての食品が日本風に変化する。むしろ上手く変化できた食べ物だけが定着したと言うことができる。ただしこれは日本だけのことではないので、遠慮する必要はない。たとえば世界の食べ物になったすしは、 受け入れてくれた各国で我々がすしとは呼ばないでくれと言いたくなるような代物に変化 している。参考までに、例外的に変わらないのはフランス料理である。フランス料理は料理人も客もフランス風に拘る。だから、世界に冠たるフランス料理が日本ではさほど普及しないと考えている。

 食べ物が変化するのには、いろいろな要因がある。食材の都合もあるだろう。料理法の都合もある。他の食品との相性もあるし、技術革新もある。しかし、最も重要な要因は人々の嗜好であろう。つまり、日本で起きた食べ物の変化を観察すれば、日本人がどういう嗜好を持っているか を語ってくれるはずである。

 ここで、まず食べ物が変化した歴史を概観する。そして、そこから何故そのように変化したのかをおいしさの視点で解説する。