食品安全施策は、国際協調が特に進んでいる分野と思われる。国際協調には、国際機関での協調と2国間の協調がある。 食品安全分野において、国際機関での協調における中核的役割を果たしているのが、Codexである。Codexは1963年にFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が設立した政府間機関で、設立当初は地味な規格策定機関であった。ところが1994年にWTO(世界貿易機関)がSPS協定(衛生と植物防疫のための措置)で、「食品安全における国際的基準、指針及び勧告はCodexのものとする」と規定して以降、重要性を増してきた。Codexは組織の性格上各国に門戸を開いており、会議は全て公開されている。策定された規格などは、サイトから誰でも入手できる。そこで策定された規格は日本でも積極的に活用しており、現在の食品安全行政は一面で直訳行政である。食品安全委員会の設置も、Codexの規格が元になった。このようにCodexの果たしている役割は誠に大きいが、Codexの規格は人の健康のためだけではなく食品貿易における公平性の確保が主たる目的であることは忘れないようにしたい。 Codexの重要性は、日本においては特別な事情もある。日本ではコーデックス連絡協議会を厚生労働省と農林水産省が共同で開催している。協議会の主な目的は、Codexでの検討議題に関する意見を調整することであるが、結果的にはとかく意思疎通に欠ける両省が日本の食品安全規制を議論する場となっている。 FAOとWHOは、単独であるいは合同専門家会合を持ち、食品安全施策のための様々な取り組みを行っている。とはいえ重要な案件はCodexと連携しており、食品安全の分野の専門家でなければ、Codexをフォローするだけで十分である。 国際機関としてむしろ注目するべきは、ISOである。ISOはInternational Organization for Standardizationの略語で、国際標準化機構と呼ばれる。ISO規格はJIS規格に反映されている。この分野では11のJIS規格が策定されている。ISOは工業分野を対象としているために、食品分野の特殊性を反映していない。その一方で、客観性を重んずる分野なので、食品分野の特殊性を強調しすぎる弊害を是正するのに参考となる。たとえば、Codexではリスク管理をリスク分析に含めているけれども、ISOでは逆である。後者の方が自然と思える。 国際機関との係わりで、関係者がよく指摘するのは、日本の担当者の人事異動が激しいことである。国際機関で会合では、しばしば休憩中の協議が重要となる。また、既存の規格との擦り合わせも不可欠である。欧米諸国からは長年携わっている専門家が出てくるが、日本はいつも新人が出席するので、十分に対応できないという。 海外の機関は国の数だけあるが、日本の安全性施策を考えるうえで重要なのは、やはりEUとアメリカであろう。どちらかというと、EUの方が重要である。 EUは、健康・消費者省の下にある複数の局で食品安全行政を推進している。EUは連合体のためか、規則No.252/2004など誰でも理解でき、誤解のない法令が整備されている。「農場から食卓まで」はEUの安全戦略である。 EUの食品安全行政で注目するべきは、ヨーロッパ食品安全機関(EPSA)である。EPSAは日本の食品安全委員会と同じようにリスク評価を所管しており、食品安全委員会の手本といっていい。もう一つは迅速警告システム(RASFF)事業である。日本の食中毒報告と異なり、ほとんどリアルタイムに事件あるいは違反が通報され、公表される。 アメリカでは、FDAが中心になって食品安全行政を推進している。FDAは厚生労働省の医薬食品局に該当するが、外局となっている。発足が農務省の局だったこともあり、食品にウエイトがある。現在は食品安全・応用栄養センター(CFSAN)が所管している。FDAの活動で日本に大きな影響を与えたのが、GRAS指定である。現在でも食品添加物分野では、権威を持ち続けている。また、HACCP発祥の国であり、組織的・機能的なアプローチに長けている。付け加えるべきことに食品防御(Food Defense)がある。日本では個人の悪意に基づく毒物混入を取り締まる法律があるけれども、組織的な犯罪は想定していない。 食品安全行政では、まだ欧米諸国の取り組みが先行している。EUやアメリカが日本との連携を特別に密にしているわけではないが、日本に対してもオープンマインドである。日本のリスク管理機関やリスク評価機関は連携強化に努めており、このような姿勢が日本の食品安全施策に果たしている効果は大きい。 |