適心性とは


 食品には、安全・栄養・おいしさの3つの要素があるといわれる。このうち安全と栄養は体への影響であり、おいしさは心への影響なので、この3つをまとめると下記のように整理できる。そうすると、心への影響に関しマイナス影響の回避の区分が空白となっていることがわかる。 

            体への影響   心への影響
 プラスの影響   : 栄養      おいしさ
 マイナス影響の回避: 安全

 従来は食品に関して体への影響とか心への影響という捉え方をしなかったので、この欠落が指摘されることはなかった。しかしながら、筆者はおいしさが心への影響であると主張してきたので、この欠落に気付いており、この空白になっている区分は安心が該当すると考えていた。すなわち、 

            体への影響   心への影響
 プラスの影響   : 栄養      おいしさ
 マイナス影響の回避: 安全      安心
 

となる。上の表は食品の要素であるが、これを食品の性質として整理すると、下表のようになる。 

            体への影響   心への影響
 プラスの影響   : 栄養性     嗜好性
 マイナス影響の回避: 安全性     適心性
 

この表で、栄養と安全では単に性が付くだけであるのに対し、おいしさと安心では用語が全く変わっていることに注目して欲しい。この両者は、人の心への影響という点で共通している。食品の要素が食品の性質になっても、栄養と安全のように体への影響の場合は、単に性を付けるだけで表現できるけれども、心への影響の場合は単に性を付けるだけだと上手く表現できない。たとえば安心に性を付けて安心性とすると、安全性などと独立した用語ではないために、表の中では納まりが悪いのである。

  適心性とは、素直に読むと心に適う特性(食品の性質)であろうが、ここでは心への悪影響を与えない食品の性質と理解する。適心性は、安心性を考察する中でその概念が想定された。つまり、安心性とは食品の性質に関する情報が作用するとい う結論を得たうえで、この食品の性質が何かを考察すると、栄養性・安全性・嗜好性に加えて心への悪影響を与えない食品の性質があると想定できた。 この心への悪影響を与えない食品の性質を表す用語として適心性を導入した。適心性は必ずしも新しい用語ではないが、これまではほとんど使用されてこなかった。

  用語として適心性が妥当かどうかは吟味の余地がある。適心性だと、マイナス影響の回避だけでなくプラスの影響の意味も持つという問題がある。代替の候補として、受容性あるいは損心性が考えられる。しかしながら、これらの用語でもそれぞれに重要な問題点が指摘できるので採用できなかった。

  ここで指摘しておきたいことは、適心性が安心性の一部であり、安心性と同じように食品に含まれる成分(物質)の作用でなく情報が人の心に作用して判定されることである。適心性の情報は、生活規範、食知識、食経歴、性向(安全志向・健康志向)あるいは体質などにより人の心に形成さている受容基準に照合されて判定される。
 

(2013年6月作成:柳本)(2014年1月改訂)