本項では、安心性と安心感の比較を取り上げる。両者の違いは、安心の後ろに“性”が付いているか“感”が付いているかにすぎない。これにより言葉の意味がどう変わるかを吟味することにより、安心性の意味を浮き彫りにしたい。 まず、安心性と安心感および安心の3つの用語の異同を整理する。最初に安心は、「食品による人の心への悪影響のないこと」と定義している。安心はいわば結果である。これに対し、安心感は「食品による人の心への悪影響についての人の感じ方」である。そして安心性は「食品の心への悪影響がない性質」である。ここに安心性が食品の性質であることが重要である。 安心性に比べると、安心感ははるかに広く使用されている用語である。また、安心と安心感はしばしば区別することなく使用される。安心感は心への影響に関する人の感じ方なので、安心とは連続したイメージで捉えることができる。これに対し、安心性は心への影響に係わる食品の性質なので、イメージを捉え難いところがある。食品分野で安心性があまり使用されてこなかった理由の一つであろう。 安心感は個人を対象とするイメージが強いのに対し、安心性は集団を対象とするイメージが強い。安心感は人の感じ方なので、まず個人がどう感じるかが問題になるのに対し、安心性は食品の性質なので、集団あるいは国民全体の感じ方の総和として捉えられる。 安心が安心感となっても、その対象には変化がない。しかし、安心性にすると食品の性質になるために、安心の対象の一部が除外される。つまり、食料確保や環境
あるいは価格などは安心の対象であるが、安心性の対象にはならない。安心性の対象になるのは、食品の性質である安全性、栄養性、嗜好性などである。 安心感は不安感の裏返しである。意味からすると不安感の方が明確なので、不安感で考察する方が易しい。しかしながら、食品事業者や行政機関が国民(消費者)に情報発信する際には、何に不安を持っているかよりも、どうしたら国民(消費者)に安心してもらえるかに関心があるので、安心感を採用する。 (2013年6月作成) |