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安心性とは


  安心はその重要性にかかわらず充分に考察されてこなかった。これは、安心が心の問題であり、これを合理的に説明しようとするとどうしても曖昧になるためと考えられる。そこでこの課題に対処するために、安心性という概念を導入することを考えた。 

安心性とは、安心をもたらす食品の性質である。ただし、安心性を説明するのに安心を使うと、説明したことにならない。そこで安心とは「食品による人の心への悪影響(危害)がないこと」という定義を利用して、安心性とは「食品の心への悪影響がない性質」と定義する。念のために付け加えておくと、この定義は正確には、食品による人の心への悪影響がない食品の性質である。 

 「人の心への悪影響がない食品の性質」と定義しているように、安心性は食品の性質なので、安心性は一種の品質特性とみなすことができる。品質特性として取り扱うことができると、品質特性についてこれまでに蓄積された知見が活用できる。安心性では安心の意味するところを完全にはカバーできないのであるが、安心性を導入すれば安心の重要な側面を把握できる期待がある。 

安心性は上の経緯で導入した用語であるが、食品分野でも先行の使用例がある。国会図書館のOPACで検索すると、伊藤らが雑誌「農業研究」に掲載した「食品の安心性に関する計量分析」が見つかる。しかし、見つかったのはこれ一つで、しかもこの論文で安心性が登場するのはタイトルだけで本文には登場しない。安心性は食品分野ではほとんど使用されなかった用語と言って良い。社会全体でみるとそれなりに普及している。国会図書館のOPACで検索すると、少数であるが見つかる。Googleを用いて“安心性”で検索すると、それこそ山のようヒットする。その内容をみると、消費者の「不安に思っていること」とか「お困りのはずのこと」を指している。

 安心性について指摘するべき最も重要なことは、安心性が食品の性質に係わる情報に起因するという事実である。すなわち、安全性が物質による人の体への作用であるのに対し、安心性は情報による人の心への作用である。 安心性について得たこの結論を安心にも当てはまるかを考えると、安心についても同様であることがわかる。
  

 

(2013年6月作成) (2014年1月改訂)