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「安全情報と安全安心」

 安全に係わる食品表示の現状



 安全情報による安心へ影響を吟味するためには、安全情報の主要な提供形態である食品表示の規制を理解しておく必要がある。

 食品表示に関する法律としては「食品表示法」と「不当景品類及び不当表示防止法(以下景品表示法)」および「不正競争防止法」の3つである。このうち安全に関しては、専ら「食品表示法」が担っている。他の二つの法律にも安全に関する規制も含まれるが、その内容は「食品表示法」に依拠している。

  「食品表示法」本体の条文には、全ての食品を対象に表示するべき9つの事項が規定されている。この中の安全に係わる事項は、4つにすぎない。

  他の法律と同じように、実質的な規制内容は「食品衛生法第十九条第一項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令」(以下表示基準府令)で定められている。表示基準府令は、その名称からも推定できるように、食品衛生すなわち安全に係わる規定が定められている。なお、乳・乳製品は別の内閣府令で規制している。表示基準府令では、表示するべき食品を特定しており、しかもその内容は詳細に亘っているようにみえる。

  ところが内容を精査すると、表示を義務づけている項目は限定的である。このことを、義務化された表示項目が多い、ハムを例として検証する。ハムは食肉製品であり、食肉製品として規定されている事項が非常に多い食品である。まず、加熱食肉製品と特定加熱食品及び非加熱食品の区別がなされている。そして、非加熱食肉製品や特定加熱食肉製品に義務づけられている水分活性や水素イオン指数の表示とか、加熱食肉製品に義務づけられている加熱後包装か包装後加熱の区別の表示まで求めており、他の食品に比べると規制に内容は詳細である。一方、筆者はハムの規制ハザードをリストアップしたことがあるので、このリストの規制ハザードと上で紹介したハムの義務表示項目を比較した。すると義務表示事項は規制ハザードの一部にすぎないことが確認された。規制ハザードのうち、取り分け畜産業生産段階及びと畜過程で発生するハザードが軽視されている。食品加工過程でも、水の含有物質、副食材からの随伴物、包装資材からの移行物質は表示が義務づけられていない。また、異物や汚染物質も免除されている。義務表示項目が特に多いハムですらこののような実態なので、他の食品は推して知るべしである。加工食品の多くは最低限の表示が義務付けられているだけであるし、生鮮食品は生食用の牛肉など一部を除くと対象外となっている。

  現在の食品表示には重要な問題として2つある。一つは、規制ハザードが非常に多い反面、表示スペースの制約がある。そしてなによりも実際には読まれていない現実がある。もう一つは、安心に係わる表示も、安全のための表示の枠組みの中で規制していることである。

  前者に関し、規制ハザードは非常に多いので、その全てを表示させることは現実的ではない。その一方で、消費者からはできるだけ多くの規制ハザードを表示して欲しいという期待がある。この矛盾する目的を両立させるためには、規制項目全てに準拠したことを一つのマークで表示する、いわゆる一括表示しかないと思われる。一括表示では表現できない項目だけを別途表示する。

  もう一つの安心に係わる表示とは、組換え食品とか放射線照射食品などである。組換え食品や放射線照射食品では、規制に適合したものであっても表示を義務づけている。食品添加物は伝統的に厳しい表示が義務づけられているが、それでも使用量の少ないものは表示する必要がない。農薬・動物医薬品・飼料添加物は規格基準の遵守を厳しく求められているが、表示は義務付けられていない。

(2014年6月作成)