機能性食品における安全性評価は、事業者が実施する。それを様式に従って記入して消費者庁に届けると、様式に不備がなければ受理される。
安全性評価の主な様式は、「安全性評価シート」である。このシートをみると、下記の構成となっている。
1.食経験の評価
@喫食実績による食経験の評価
既存情報を用いた評価
A2次情報
B1次情報
2.安全性試験に関する評価
既存情報による安全性評価
C2次情報
D1次情報
安全性試験実施による評価
Ein vitro試験及びin vivo試験
F臨床試験
ここに、丸数字は安全性が確認できたかどうかを判断するステップであり、確認できたと判断した場合は、それ以降のFまでのステップは飛ばして、これに続くGの「機能性関与成分の相互作用に関する評価」に
進むことができる。
本制度における安全性評価の仕組みの特徴の一つは、食経験の評価を喫食実績による評価と既存情報による評価の2本立てとしたことである。このような捉え方、特に食経験に既存情報による評価を含めたことは、本制度の
発案である。これが食品の安全性確保にとって画期的な手法であれば幸いであるが、安全性情報や安全性試験を軽減するための方便の懸念がある。具体的には想像できないので、内容で検証する必要がある。
「2.安全性試験に関する評価」で「既存情報による安全性評価」というのも不自然である。情報検索して得た結果を「安全性試験に関する評価」というのだろうか。通常は安全性情報と呼ぶと思われる。実際、一般向け公開情報では、「安全性に関する既存情報の調査により、十分な安全性を確認している。」と言い換えている。
機能性表示食品制度では、安全性評価シートを作成したのは消費者庁であるが、安全性を実際に評価するのは申請する事業者である。消費者庁は、届け出の書類が整っていれば受理する。このシステムは国が関与しているように説明できるけれども、していないとも説明できる。少なくともリスク評価の視点では関与しているとはいえない。
安全性試験を実施した場合、そ
の結果をまとめた論文が学術雑誌に掲載されると、それを根拠に自分で安全と確認できる。これは驚くべき論理で、これで通用するならば、食品安全委員会は不要である。リスク管理機関もリスク評価機関も異議を申し述べないことが不思議
に思っている。
消費者向けのパンフレットをみると、「事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものです。ただし、特定保健用食品とは異なり、消費者庁長官の個別の許可を受けたものではありません。」と説明されている。ところが販売する商品には、「本品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。ただし、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。」と表示することになっていて、安全性については割愛されている。
<食経験を中心とした安全性確認の実態>
機能性表示食品制度では、受理した案件の届け出内容を公表している。このために、その実態の把握が容易である。
下のまとめは2015年5月20日までに公表された21品目に基づく。最新の登録商品は、筆者によるまとめはこちら、
あるいは消費者庁の公表資料ページを参照してください。
食経験の対象物質をみると、機能性表示食品も関与成分(有効成分のこと)が11品目と多いことが指摘できる。食経験が重要な基原材料は1品目にすぎない。商品(製品食品や最終製品)を主張されているのが4品目あるが、既に販売している商品に食経験を主張していることになる。
食経験の内容をみると、昔から食べているという例は、1品目にすぎない。そして、2000年以降が11品目と過半数を占めており、1980年以降だと18品目に達する。昔から食べているという食経験の社会通念に該当していないようにみえる。そして17品目はその販売実績(量)を食経験と主張している。実は既に販売している商品または類似の商品を申請しているのである。
製品の形態をみると、サプリメント形態が18品目と大部分を占める。ということは、上で述べた食経験の対象は、実はサプリメント形態の関与成分である。サプリメントの販売実績で食経験を主張できるというのは、健康食品分野の事業者と行政担当者の常識にすぎない。なお、加工食品も3品目含まれているが、飲料ばかりである。そして生鮮食品はまだ受け付けられていない。
上で述べた既存情報による食経験の評価に挙げられているのは、国民健康栄養調査のこともあるが、多くは国立健康栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報のサイトにある素材情報データベースとアメリカの・ナチュラルメディシン・データベースなど
である。これらのデータベースは有効性と安全性を記述したものであり、食経験を目的としたものではない。事業者の記載も安全性情報としてである。
中には届出番号7のように、既存情報を用いた評価A2次情報の欄に記載しておいて、一般向け公開情報では、「安全性に関する
既存情報の調査 により、十分な安全性を確認している 。」とした例もある。
このように、機能性表示食品制度では安全性評価における食経験を拡大解釈しているので、社会通念との乖離が顕著になっている。
(2015年6月作成) |