今年(2012年)牛生レバーの生食が禁止になった。これに対し、「これまでは禁止されていなかったのに」とか「当店では事件を起こさなかったのに」という批判がなされた。新聞はこの論調に好意的だったけれども、それは安全性基準が着実に高くなっていることを理解していないからである。前の意見に関し、事件が起きれば行政が規制を検討するのは当然であり、特にこの案件では事件が起きたから規制を考えたのではなく、規制を考えているところに事件が起きたのである。後ろの意見に関し、事件の発生状況を知らないだけであり、自分の店で事件を起こすまで営業できるような時代ではない。 食品の安全性基準は変わらないと想像している人が多いけれども、実際には着実に高くなっている。食中毒など見える危害に対しても、事件を把握する確率が高くなっている。特にこの分野は国際協調が進んでおり、海外のリスク管理機関との情報交換システムを整備してきたので、事件を把握する確率が一段と高くなった。昔は法定伝染病と教えられた赤痢菌やチフス菌が 現在では食中毒菌の仲間に加えられ、規制の対象となっている。見える危害の分野でも、関係者にはもっと見えるようになっているので、規制は少しずつ厳しくなっている。 前項で述べた見えない危害の分野では、もっと急速に厳しくなってきた。実験的にあるいは疫学調査でリスクが指摘されると、規制が検討される。たとえそれが安全性審査を経て一見安全に流通している物質であってもお構いなしである。規制するのに、被害者の存在や事件の発生を確認する必要はない。信頼される 実験データだけで十分である。たとえば食品添加物のAF2は、被害者も事件も確認されていないのに、実験データだけで禁止になった。 もちろん、それなりの歯止めはある。Codexあるいは関連の専門家会議であるJECFAあるいはJMPRによりリスクの存在が科学的見地から吟味される。そこで根拠ありと判定される必要がある。 新たなリスクの存在がこれからも解明されると見込まれること、国民の安全性への関心が益々高くなっていることから、今後ともこの傾向は続くと信じられる。 |