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安全性試験の内容は薬に及ばない


 食品の安全性を考えるうえで、参照するべきことに薬での取り組みがある。なぜなら、食品と薬 はどちらも人が摂取する点で、基本的に似ている。多分そのためのと思われるが、アメリカにはFDA(食品医薬品局)があり、日本の厚生労働省には医薬食品局が設置されている。 

もちろん食品と薬が同じと主張するものではない。薬だと摂取しない選択もあるし、摂取する場合にもしばしば短期である。薬効次第では副作用を受け入れる動機がある。一方、食品は摂取しないという選択はなく、しかも大量に摂取する。したがって、健康影響が小さいことが前提である。 

 念のために確認しておくと、全ての食品が安全性試験を経ているわけではない。言い換えると、普通の食品は安全性試験を免除されており、それでも安全とみなしている。その理由は充分な食経験があるためと説明されている。本当は普通の食品も安全性試験を実施した方が良いのであるが、複雑系である普通の食品の安全性を試験するのは実際には困難という事情がある。なお、食経験を理由に安全性試験を免除・軽減されているものがある。その中には、いわゆる健康食品 、特定保健用食品及び食品添加物が含まれる。 

安全性試験が行われているのは単純系の化学物質である。化学物質でも、意図的に利用する食品添加物・農薬・特定保健用食品などと、意に反して混入してしまう汚染物質・カビ毒などでは事情が大きく異なる。この違いは開発企業が存在するか否かでもある。必ず安全性試験が実施されるのは前者である。なお、特定保健用食品は食品と呼ばれているけれども、機能性を発揮しているのは単一の化学物質である。 

食品添加物・農薬・特定保健用食品などの安全性試験と薬の安全性試験を比較すると、かなり異なる。まず薬の安全性試験は非臨床試験と臨床試験(治験)に大別し、臨床試験はフェーズ1からフェーズ3に分けられる。食品の安全性試験では非臨床試験と臨床試験の区別がない。というより臨床試験は課せられていない。臨床試験が課せられているのは特定保健用食品のみである。しかも、特定保健用食品ではフェーズの区別はない。また、薬では安全性審査を事前審査と事後調査に分け、 安全性確認は両方で達成できるとしている。事後調査とは、具体的には市販後調査や副作用報告で、どちらも法律で義務付けられている。食品における安全性審査は事前審査だけであり、したがって市販後調査の義務はない。食品分野では、非臨床試験を安全性試験とか毒性試験と呼 ぶことが多い。 

非臨床試験について、その試験項目を見るかぎりは、食品と薬とでは一致している。しかしながら、その試験内容 は一致していないと思わる。ただ残念なことに、この件に関しては具体的な資料がほとんど公表されない。部外者が伺い知ることは困難である。一部垣間見ることができたのは、慢性毒性試験の期間が、薬の2年に対し食品は1年である。また繁殖試験は、薬の3世代に対し食品は2世代である。 

前述のように、食品の安全性試験が薬と同じであるべきと考えているわけではない。リスクを承知で服用することを厭わない薬は、リスクの大きい化学物質でも使用する。食品では100%安全ですと言いたいような化学物質が対象である。また、開発企業が膨大な創業者利益が期待できる薬と創業者利益が僅かしか期待できない食品とでは、条件が大きく異なる。それに伴い、実施可能な試験の質と量が異なる。 現実の問題としてどのレベルが妥当かは、リスク評価とかリスクコミュニケーションの重要な 課題である。 

補足ながら、指摘しておきたいことがある。安全性試験の結果から導かれる指標としてNOAELがあり、 食品の安全性試験では重要な用語である。これが無毒性量と訳されている。NOAELはNo Observed Adverse Effect Levelの略語であり、訳に際してObservedを無視している。これを無視するので、100%安全という誤ったイメージを与えている。直訳すると健康影響非観察量であり、意訳しても毒性不検出量であろう。ゼロリスクはあり得ないと主張されている昨今の用語としては、時代遅れである。

(2012年8月作成)