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リスクコミュニケーションが根付かない理由


リスコミというと、消費者との場合ばかりが話題になるので、リスコミはあたかも消費者が主な対象と思ってしまう。実際にはリスク管理機関は食品企業や関連 機関とリスコミを実施してきた。歴史は古く、現在でもこちらが中心である。原子力発電分野では、審議会の資料が事前に電力会社に漏らされていたのが問題となったが、食品分野でも同じ ようなことが起きていたかもしれない。 

 敢えて公表はされないけれども、食品企業や関連機関とのリスコミはこれまでも当たり前のように実施されてきた。審議会の議事録にも、オブザーバーや参考人として参加させていたことが記録されている。リスク管理機関としては、食品企業等から意見を聞いて、実現不可能な施策にならないように配慮してきた。 ただし、食品企業等の意見はあくまで参考で、意志決定には参加させなかった。 

これまでに足りなかったのが消費者とのリスコミである。全くなかったわけではないが、消費者とのリスコミはまだ根付いているとは言い難い。現役時代にCodexの準備段階レベルの会合に出席した時、消費者代表もオブザーバーとして参加していて、各国代表と同じように発言しているのをみて、面食らった記憶がある。Codexでは、消費者とのリスコミが日本よりずっと進んでいた。 

消費者とのリスコミが根付かない最大に理由は、関心が高い消費者と一般消費者とのリスコミを混同してきたからと考えている。リスコミの主な対象は関心が高く十分な見識を持った消費者である。 

関心の高い消費者とのリスコミが本来のリスコミである。ここでは、リスク管理機関・リスク評価機関の担当者が消費者の意見・見方を聞いて、検討中の原案策定に反映させる。意志決定の場にも可能なかぎり消費者の代表を入れる ことが望ましい。ただし、リスコミは協議の場であって交渉の場ではないので、意見を採用するかはリスク管理機関などに委ねられる。      

リスコミを根付かせるためには、リスク管理機関も消費者も双方が努力することが必要で、片方だけの問題ではない。リスク管理機関にはまだ斜に構えているところがあり、開催自体が目的のリスコミになり勝ちである。消費者団体には交渉の場として甚だしきは糾弾の場としての捉え方が残る。 

一般消費者とのリスコミは本来のリスコミではない。一般消費者は討議に必要な知識を持ち合わせていないのが普通である。それ以前の問題として、一般消費者(国民)はリスコミの会場にまで めったに来てくれない。一般消費者は公報の対象で、広報紙などにより消費者の手元まで届ける必要がある。一般消費者には正しい情報を分かり易く提供するのが目的である。

とはいえ、関心の高い消費者と一般消費者は実際には明確には区別できないので、補助的には幅広い市民を対象にしたリスコミも必要であろう。その場合は、先鋭的な意見を披露する参加者に目を奪われ勝ちであるが、後ろで黙って聞いている参加者の反応を見極めることが大切である。

(2012年8月作成)