国民の安心を確保することは、社会的に重要な課題である。政策課題としても重要であり、各種の選挙でもしばしば「市民 (国民)が安心して暮らせるように」と訴えている。この訴えは、選挙民からそれなりに支持を受けているようにみえる。 安全・安心が問題になるのは食の分野だけではない。防犯、防災、国防、感染症対策、原子力発電など数多くの分野で問題にされている。これらの分野で安心をどう取り組んでいるかは、食品分野の安心を考えるうえで、貴重な示唆を与えてくれる。 まず指摘するべき点は、これらの分野では安心の問題は安全に対する不安とほぼ同一である。食品分野で安心と安全を表裏一体のように捉えることが多いのは、 これらの分野ではこの捉え方が常識のためかもしれない。 次にこれらの分野では、人に対する危害だけでなく経済的な被害も重視されている。更に国防の場合には、これに国体の維持が加わる。一方、食品分野では人に対する危害に限られる。 三つ目に、これらの分野では多くの場合危害は一回の衝撃で引き起こされ、その被害が“見える”ことがある。食品分野でも食中毒のように一度の衝撃で、その危害が見える例もあるが、たとえば食品添加物・汚染物質に代表される化学物質による危害は、長期的に繰り返し暴露することで引き起こされる。この場合、危害が何時・何処で・誰に引き起こされたかは“見えない”のである。
最後に指摘しておきたいことは、防犯、防災、国防では、それに携わる主体は行政機関である。国民の安心は、行政機関に委ねられている。したがって、これらの分野では、“守られていることに対する信頼”と理解されることがある。 |