安全感は必ずしも新しい用語ではないけれども、筆者はこれを“食品による体への危害の感じ方”と定義付けし た。この用語を導入すると、食品の安全性に係わる安心を定量的に表現する途を拓いてくれる。 はじめに、従来から用いられている類似用語との関係を整理する。最も近い用語に安心感(または不安感)がある。安心感は広く使用されるので、安心感が使用できれば都合が良い。ところが、安心感では安心の持つ曖昧さを引きずってしまう。また、 安心感と安全感は後述のように明確に区別できるので、同じ意味で使用することはできない。次に、ヨーロッパでよく使用される用語に消費者の懸念がある。これも安全感に近い概念である。ただ、消費者の懸念 の場合も、安心が持っている曖昧さを脱却していない。また、懸念というとネガティブな面しか表現できない。最後に、ある意味で最も近い用語として心理的安全性がある。心理的安全性は安全感とほぼ同じ意味と思われるが、心の問題を表す用語に安全性と表現すると、今後の展開に不便さが付きまとう。 用語の意味を厳格化するために、関連用語との関係を整理する。ここに関連用語とは、上で述べた安心感、そして安全と安心、これに加えて安全性と安心性の5つの用語である。説明が少し込み入るので、安全感を含めた6つの用語の関係を下表に示した。まず安全感と安心感。この2つの用語は人の感じ方という点では同じであるが、安全感が食品による体への危害の感じ方であるのに対し、安心感は食品による心への危害の感じ方である。この関係は安全と安心も同じで、安全が食品による体への危害がないことであるのに対し、安心は食品による心への危害がないことである。そして、両者はいわば結果である。一方、安全性は食品の性質で、食品による体への危害がない性質である。この整理に従うと、食品の性質には心への危害がない性質あるはずで、これが安心性である。安心性は見慣れない用語かもしれないが、探せば使用例がある。以上のように整理すると、安全感と安全性については共に体への危害に関してであり、安全感が人の感じ方であるのに対し安全性は食品の性質である 。 安全感と安全性との関係を整理できたことは重要で、安全感を導入することにより、「食の安全・安心」の多くは「食品の安全性と安全感」として対応できる。ここに含まれないのは、安心の対象が食料確保や栄養性など安全性に係わらない場合である。 「食の安全・安心」に安全感を導入するメリットを挙げると、まず安全に係わる心の問題と安全以外に係わる心の問題を明確に区別することができる。これは、安全感を導入した直接の動機なので、当然と言えば当然である。 二つ目に、安全感では心の問題を定量的に取り扱うことが容易になる。安心あるいは安心感でも、大きな安心という言葉があるように、定量的な表現も可能である。しかし、心の問題を数値で表すことには躊躇があるためか、実際に取り扱った例は見当たらない。安全感は安全性に対応する用語なので、安全性と同じように定量的な概念を持ち易い。具体的には、安全感指数で表す。安全感を定量的に表現すれば、「食の安全・安心」の実証的な把握が可能になる。
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