トップページ

安心に係わる措置の吟味

ALARP


 国民が不安を持つ化学物質や汚染物質について、必要最少量に規制すれば大量摂取への不安がそれだけ小さくなるので、国民の不安軽減に役立つ。 

ALARPとは、合理的に実現できるかぎり低く(As Low As Reasonably Practicable)という意味で、似た考え方にALARAAchievable:達成)がある。ALARPは考え方なので、ALARPの原則といわれることも多い。 

実は食品分野では専らALARAが使用されている。CodexCCCF部会(食品汚染物質部会)でこの用語が採用されたことによる。 標題ではALARAを 採用せず敢えてALARPを 採用したのは、汚染物質ではこれまでlowよりもreasonably achievableに力点をおいてきたからである。 

一方、工業分野ではALARPが使用されることが多く、たとえば医療機器のJIS T 14971:2003で採用されている。この規格を紹介するのは、こちら ではlowにウエイトが高いからである。参考までに、ここではALARP領域という用語を使っており、受容できない領域と広く受容可能な領域との中間と位置づけている。 

食の安全・安心分野でもlowに力点をおきたい。 意図せず混入してしまう汚染物質の場合には、行政当局がALARAを選択肢として留保したい気持ちは分からないでもない。しかし、その場合でも、それもあらゆる代替措置を検討した後に やむを得ず採用するべき方策である。

一方、化学物質の食品添加物や農薬のように意図して使用するケースでは、lowに力点をおくべきである。これを主張する背景には、一日摂取許容量(ADI)の捉え方に対する違和感がある。リスク評価では、毒性などの試験結果にしたがってADIを定める。この数値が非常に高い場合もあるし、ADIを定めないと評価される場合も少なくない。ADIを定めないと評価されると、安全だから自由に使って良いとになって しまう。しかし、安全性試験で問題が指摘されなくとも、安全性が証明されたわけでない。安全性試験で影響が認められなかったから自由に使って良いというのは、 基本姿勢に疑問がある。 

たとえば食品添加物では効能を期待して使用される。その効能の充分濃度を超えて使用する理由はあるのだろうか。削除された既存添加物には、添加物としての効能ではなく、実際は健康機能を目的に使用されていた例が少なからずあった。効能の必要量を上限量とするという考え方があってしかるべきである。食品安全委員会がADIを設定しないとか非常に高いADIを決めると、リスク管理機関が効能の必要量に基づいて上限量を定める。食品添加物や農薬などでは できるだけ少なくと姿勢に欠けることが、食品添加物や農薬の安全感を低くしていると信じている。

食品添加物に関するコーデックス一般規格(CODEX STAN 192)には、食品添加物の利用に関する一般原則として、食品に加えられる食品添加物の量は「意図した効果を達成するために必要な最少 レベル」と規定している。この規定は、将に本項の主張そのもである。にもかかわらず、日本の食品添加物規制の告示である規格基準には、この規定が反映されていない。 

この考え方が徹底すると、逆に世の中に蔓延っている無添加・無農薬を標榜する商品に、何故それが可能なのかを問う根拠がはっきりする。食品添加物や農薬は必要だから使うのであり、必要なければ使わない。そうすると、必要なはずの食品添加物や農薬を本当に使っていないのであれば、何故必要でないのかを合理的に説明できなくてはならない。 

最後に用語の問題に触れておく。ここで日本語ではなく英語のALARPを採用したのは、 この分野では従来からALARPやALARAが使用されて いるためである。本項では、ALARPを合理的に実現できるかぎり低くという訳を採用したが、 もっと進めて合理的に可能なかぎり低くと解釈したい。日本語では、必要最少量の原則と呼ぶのが望ましい。

(2012年8月作成、21013年5月改訂)