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安心に係わる措置の吟味

トレーサビリティ


国民が不安を持つ食品について、その食品の食材から加工段階、運搬段階、販売段階に至る全ての段階を遡及・追跡できるような体制を構築すれば、 取り締まり機関は危害要因を発生させるかもしれない段階を何時でもチェックできるので、国民の安心を得ることができる。 

トレーサビリティの英語はTraceabilityで、 一般にはカタカナで表記されるが、日本語では遡及可能性あるいは追跡可能性と訳される。トレーサビリティは、従来からブランド商品などを品質保証するためのシステムとして普及が進んでいた。また食中毒事件の原因解明のための手段として限定的ではあるが、推進されてきた。 

トレーサビリティを法令に基づいて実施している例が二つある。牛肉と米である。牛肉は、牛肉トレーサビリティ法と通称される「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」が 2003年に制定された。これはBSE対策の一貫であり、全頭検査とともに実施された。もう一つの米は、米トレーサビリティ法と通称される「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」が2010年に制定された。事故米事件を契機に法制化された。 

部分的に実施されている例として、食品衛生法第三条第二項「販売食品等又はその原材料の販売を行つた者の名称その他必要な情報に関する記録を作成し、これを保存するよう努めなければならない。」の規定がある。これは努力目標ではあるが、事件を起こした場合、記録がなければ その責任が問われる。さらに、製品の包装に製造所固有記号付けることにより、事件があればどの工場の製品かが直ちに分かる体制の構築が進んでいる。同じ目的で食品工場や給食場においては、ロットごとにサンプルの保存が義務付けられている。近年の傾向として、大手量販店が納入事業者に記録の保存を求めるようになっている。

以上のようにトレーサビリティ体制の整備は、食品分野の大きな流れとなっている。特にコンピューター技術の進歩により、労力が大幅に軽減された。 

 とはいえ、個人経営や零細な企業体が多い農業や食品流通分野にまで徹底するには困難も多い。義務化すればこれらの分野の零細な企業体の存続が厳しくなる可能性がある。さらに、輸入食品が増加している今日、国内の生産者だけに実施を求め、輸入食品は税関以降とすると、国内の生産者が不利を被る可能性がある。 

トレーサビリティは、本来的にブランド商品の品質保証と事件の原因究明が目的であり、食品の安全性確保に直接役立つわけではない。食の安心との係わりで実施するのは慎重に対処する必要がある。

(2012年8月作成)