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食とは


食品とは」の項をご覧いただくと分かるように、食品という2字の熟語を説明するのに、食を使う例が多い。これでは説明したといえないので、食品を定義するのに食の語 は使うべきでない。そのためにも、食とは何かを考察しておく必要がある。

食を考察するうえで役に立ちそうなのは漢和辞典である。新漢和辞典によれば、食は合字で、上の部分は集合を意味し(表記できないので辞典で確認ください)、下の部分は穀物のよいにおいを表し、合わせて集めたよい穀物の意という。読み方は「ショク・ジキ、くう・くらう、たべる」である。その意味は「@めし(飯)。Aたべもの。食物。B食事。めしを食うこと。食事をすること等」となっている。食の字が穀物に由来していたことは示唆的である。しかしながら、食の本質を穀物で説明することは困難である。

結論からいうと、食とは「動物が生命を維持するために、栄養素を含む物質を摂取すること」である。ここに動物全体を指すのは摂取行為を表す場合に限られ、一般には人を前提 にしている。栄養素を含む物質とは、一般的には農畜水産物である。

生命を維持するためには食べることが不可欠である。食べることは、栄養素を獲得することで、健康的な生活に必要な栄養素が「日本人の栄養摂取基準」で定められている。現在の2010年版では、栄養素がエネルギーを含めて35種類(うちビタミンが15種類、ミネラル等が15種類)掲載されている。なかでも炭水化物・タンパク質・脂肪が三大栄養素とされる。参考までに、水と空気 (酸素)は生命を維持するのに不可欠であるが、「日本人の栄養摂取基準」には栄養素として採用されていない。

炭水化物・タンパク質・脂肪を含め栄養素の大部分は動植物体に依存している。食べることは、動植物体に由来する物質を摂取することである。つまり動植物の生命を奪うことで、大変残酷な行為である。自然の摂理とはいえ、奪われた生命に対する鎮魂と感謝の念を持つことは人として食事をする際の義務である。

動植物体に依存せず、石油や石炭、天然ガスを原料にして栄養素を合成し、これを組み立てて食品を生産する時代が来るといわれたこともあった。特に宇宙開発が始まった頃には未来の食品として熱く語られた。しかし、実際には逆に宇宙食品が普通の食品に近づいたものになった。

食品添加物の一部は合成されている。しかしながらこれも所詮は添加物にすぎない。合成清酒や清涼飲料水であれば将来合成できる可能性は否定できないが、現在 でも植物由来の原料に依存している。経済性や安心感(温もり)を考慮すると、動植物体を素材にしない食品は将来も普及しないと信じられる。

個体が生命を維持するためには食が不可欠であり、子孫を残して種を維持するためにセックスが不可欠である。個体を維持することと種を維持することは生命の本能であり、どちらにも快感が伴うようになっている。

人が生活していくうえの基礎として衣食住がある。このうち衣は、人のみが必要としている。住はそれといえるものを持っている動物もあるが、人との差は大きい。これに対し、食は全ての動物が行っている。植物や微生物でもそれに相当することを行っている。食べることは、文化が発達してからではなく、人類が発生する前から、生命が発生したときからその原型を持っていた 。 日本語では、食品、食物、食料、食事、食生活、主食、朝食、食べるなど食に関することはほとんど食の語を使用する。例外は料理くらいである。ところが、たとえば英語では食品はfood、食事はdiet、食べるはeatと多様である。

食が付く熟語は、専ら食に関する意味を持つ。例外的に日食や月食に「食」が残されている。ただし、日食や月食は日蝕や月蝕と記述されることもある。日食や月食は、蝕が常用漢字でないための当て字ではないかと疑っているが、各種辞書を調べるとそうでもない。

(2013年10月作成:柳本)