前項では、食品安全施策の基本が科学的根拠であると述べた。しかしながら、一部専門家が主張するような、科学的根拠だけで自動的に決まる行政施策が望ましいという意味ではない。行政施策の基本は民意の反映という大原則がある。国や地方自治体に必ず議会が設置されているのは、行政施策に民意を反映させるためである。
食品安全施策も科学的根拠が基本となったのは古いことではない。2003年にリスク分析の理念を踏まえた食品安全基本法が制定され、リスク評価機関として食品安全委員会が設置されてからである。それまではリスク管理の一部としてリスク評価が実施されていた。CODEXが指摘するまでもなく、リスク評価
とリスク管理が独立していなかったので、リスク評価がリスク管理の意向に左右されているとの批判が付きまとった。
リスク分析の仕組みでも、科学的根拠に徹するのはリスク評価だけである。リスク管理では、リスク評価結果を尊重しつつ諸般の事情を勘案して判断することになっている。リスク管理機関はリスク評価の結果を尊重しなければならないが、拘束されるわけではない。
ここで、別項で「安心は民意でもある」と指摘したことを思い出したい。国民の不安が民意といえるほど強いものならば、国民の安心すなわち民意を反映するのは当然のことである。民意を反映させるのが民主主義であり、民意を低くみるのは超然主義である。
食の安心が行政施策に反映されるべき所以はここにある。
(2012年8月作成)(2014年7月改稿) |