異物は、食品企業にとって食中毒菌とともに最も気を遣う対象である。「規制されている異物かの判別」で説明したように、異物うち何が規制されているかは曖昧であるが、認識ハザードとして採用するべきかとなると、もっと曖昧である。
食品企業としては、個別の微生物が規制されているかどうかは規制当局から処罰を受ける際に影響してくるが、異物の場合は、規制当局よりも消費者からの苦情がより現実的な課題である。認識ハザードとすら言えないような物質でも、異物として苦情が届く。
食品の異物とは、厳密にいうと食品以外の物全てが対象になる。これを全て認識ハザードとして羅列しても無意味である。明らかに異物と言える物としては、規制ハザードとして挙げた金属・ガラス・じん芥だけでなく、石、土、プラスティックなどがある。そして消費者からの苦情でいちばん多いのは害虫である。しかしながら、貯穀害虫やダニでも、食品安全委員会がリスク評価すると、死骸が少々含まれていても「安全性に懸念がないと考えられる」との結果になると推量できる。
人毛や獣毛は、かなり前から異物とみなされている。作物の非可食部分、他の作物の種子、魚の骨、肉中の血なども、近年では異物とみなされるようになってきた。また、微生物ですら胞子を作るカビだと異物とみなされることがある。
ハザードとしての異物の特徴は、事件発生の頻度が高い一方、症状が一般に軽微で一過性が多いことである。また、国のリスク分析のあり方よりも食品製造現場での品質管理の問題である。消費者の注意により事件がかなり回避できることも特徴といえる。
以上の事情から、統一的に認識ハザードを決めることは無理がある。他のハザードと同じように、作成対象の食品中に存在したことが問題となったことを記述した公的資料・サイトおよび専門的な書籍が存在するかを判断基準にするしかなかった。