調製粉乳は、一般には粉ミルクと呼ばれている。調製粉乳の品質の向上は目覚ましく、現在では状態が良くない母乳を超えていると言われている。このために、乳児とのふれあいの意味も含めて
、母乳で育てることの重要性がキャンペーンされている。この事実は、調製粉乳の安全性が専門家だけでなく多くの母親からも信頼されていることを意味する。
しかしながら、この信頼を裏切らないためにも、今後とも安全性確保を徹底することが重要である。調製粉乳は世の中で最も安全性が高くなければならない食品である。したがって、調製粉乳は食品衛生法において最も厳格な規制がなされるべき食品のはずである。なによりも調製粉乳が原因で日本において重要な事件が起きたことも忘れることはできない。
現在の規制法令をみると、食品衛生法の省令である乳等省令が見つかる。乳等省令の存在は、調製粉乳の規制にとって都合が良い。特別な条項を入れ易いからである。
調製粉乳の乳等省令における規制は、第3条に基づく別表の二に規定されている。別表の二は「乳等の成分規格並びに製造、調理及び保存の方法の基準」である。このうち調製粉乳の成分規格は(三)の22項の調製粉乳で規定されているが、その内容は24項まである他の牛乳・乳製品と変わるものではない。
製造基準については(五)の(6)で「調製粉乳にあつては乳(生山羊乳、殺菌山羊乳及び生めん羊乳を除く。)又は乳製品のほか、その種類及び混合割合につき厚生労働大臣の承認を受けて使用するもの以外のものを使用しないこと。」と規定している。これも他の牛乳・乳製品と変わるものではない。
食品衛生法が特別に関与している唯一の例に、食品表示法に基づく内閣府令第45号がある。ここには「乳児用食品」の表示に関する規定がある。とはいえ、放射性セシウムの基準値が一般食品では100Bq/kgであるのに対し、乳児用食品では50Bq/kgと定めたこと
と整合性をとるためで、極めて局所的な規定にすぎない。
実は、調製粉乳については、成分が健康増進法の中で詳しく定められている。このために、調製粉乳の所管は安全性に対する規制も含めて健康増進法の所管部局に委ねられているようにみえる。しかしながら、食品の安全性が最も厳格であるべき調製粉乳が食品衛生法体系とは別の法律に委ねられていることには不自然である。
なお、上記製造基準には「厚生労働大臣の承認を受けて使用」と規定していることが指摘できる。この規定で乳等省令の関与を担保しているのかもしれない。しかしながら、法治国家においては、可能な限り法令で規定し、担当部局(者)の一存で判断するのは限定的にするべきである。この規定では担当部局(者)に一任となる。